5月の模試以降、「あれだけ苦手だった英語、物理ですぐに結果が出た。この調子で数学も攻略すれば、受験のメドが立つ」と私は意気込んでいた。しかし、この後の2カ月、私は自身の学習歴において最も不毛な時間を過ごすこととなる。
「数学はすぐに答えを見るな。分かるまで自分の頭で考えるのが大切だ。」
古今を問わず、ちまたで唱えられているこの学習法を鵜呑みにしてしまったのだ。
30分~1時間程、分かりもしない問題とひたすらにらめっこし、結局わからず解答を確認、解答を見てもなぜそう解くのか全く分からず「そのうち分かるようになるだろう」と根拠のない割り切り。
そんなことを2カ月程、続けていた。心のどこかで「こんなやり方でいいのか」という不安がありながらも、「続けていれば、いつか分かる日が来るさ」そう自分に言い聞かせていた。
8月に入り、「もしかしたら知らず知らずに数学の力がついているんじゃないか」そんな漠然とした期待を抱きながら、偏差値40程度の大学の赤本を開いた。
「え~と、この大問は難しそうだから後まわし。これも、う~ん、難しいなぁ。次の大問は・・これは・・え~と・・」
「う~ん・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・**〇!☆?*△×!!?・・」
(パタン)
・・・本を閉じる。
(さっぱり分からない!!)
びっくりするほど分からない!解き方どころかそもそも問題文が何を言っているのかが全く分からない!
ここで始めて、この2ヶ月で数学にはどのような分野があり、どのような公式・定理があり、どのような解法があるのか、全く身についていないという事実を直視することとなった。
そしてその原因は明らかだった。数学の学習においては、英語、物理の学習の際の「完成度重視」「復習重視」ではなく、とにかく先へ進めようと「進捗(しんちょく)度重視」で理解を伴わないまま進めていたからだった。
ここで初めて、数学に費やした2カ月が全くの無意味だったことを知る。
「俺はこの2カ月、何をしていた!?」
「このままじゃ絶対に負ける!」
そして、
「というか、俺は数学を勉強する必要があるのか?そもそもなんで理系を選択したんだ?」
そんな思考が頭の中を駆け巡った。
挫折したことで、なんとなく始めた受験の意味、自分の進路について始めてじっくり考えた。そして、受験の相談に乗ってくれていた先輩に「心理学を勉強したいんですけど、どんな大学を目指したらいいですか」と尋ねた。
「・・・心理学は文系だよ」
雷に打たれた。そんなことを調べもせずに受験をスタートしていたのだ。
しかし、それを聞いてすぐに私の心は文転に傾いた。
(心理学を学んでカウンセラーになりたい)
明確な受験校のビジョンは持ち合わせていなかったが、その思い自体は受験当初から強く持っていたからだ(だったら大学ぐらいは最初に調べておけ、という話は置いておいて…)。
もちろん、これから国語や社会の学習を始めて間に合うのか、途方もない不安が押し寄せたが、数学とおさらばできるという事実の方が勝っていたということも文転の理由としてはあったと思う。
こうして大きな挫折と予想だにしなかった方向転換を経て、勝負の夏を迎えることとなる。